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鹿島槍ヶ岳 北壁climb &ride... &down

【後立山連峰の盟主 ”鹿島槍ヶ岳”  その北壁の登頂滑走を目指した記録】


2021年3月9-11日に単独で鹿島槍ヶ岳北壁を訪れたときの記録です。

 

 

毎年3月に入ると決まって何日間か晴れが続く好天周期がやってくる。

 

19年前に故新井裕己さんが北壁を滑ったのは、時期が1ヶ月遅い4月で、ロクスノに載っていた記事を読むと、時期的に当たり前だが、ザラメのコンディションだった。

少し記録を調べると、2002年はそれほど雪の多い年でもなかったような気がするが、ここ数年の降雪状況と比べれば、そこはやはり全然多かったと思う。

また新井さんが遠見尾根から入山した前日には、降雪があったと思う。想像するに、コンディションは、春のザラメの上に重い湿雪が載った感じだろうか。

急斜面滑降で、表面に柔らかい雪があるのは絶対条件だと思うが、4月のこの時期に降る雪は重く、足を取られることもある。

 

今回この時期を選んだのは、年々雪が少なくなっている状況で、できるだけ壁に雪の残っている内に滑りたかったからだった。

理想としては、まだザラメになっていないドライな雪を滑りたかった。

当然その分雪崩のリスクは高くなるので、好天が何日か続いて雪が落ち着いていることが必要だった。

もう一つ、3月末に佐々木大輔さん率いるパキスタン遠征隊の事前合宿で、目的地がしっかり決まっていた訳ではなかったが、北壁を訪れるかもしれなかったのでその前に自分の力でこのルートに挑戦したかった。

 

鹿島北壁のルンゼはそれぞれ意外と深くなっていて、朝は日が当たるが、午後になると日陰になるところが多い。今回、何日か晴れの日が続いた後だったので、雪がクラストしてしまっているのが心配だったが、ルンゼの中はそれほど日射の影響がないんじゃないかという考えもあった。

 

新井さんが正面ルンゼを滑った時、カクネ里から天狗尾根を登って山頂から初見で滑ったようだが、自分は滝のクライムダウンや懸垂のポイント、雪の状態を確認しながらでなければ無理、というか怖すぎるので、正面ルンゼの登頂滑走という計画にした。

 

快晴の遠見尾根を歩き出す。

最高の天気で五竜もいつになく綺麗。

そして少しいくと遠見尾根の向こうに鹿島北壁が見えてくる。

北壁がよく見えるポイントで単眼鏡を使って正面ルンゼの様子を確認する。

シーズン中既に何度か見にくる機会があったが、やはり少し雪付きが良くないように見える。逆くの字に曲がる屈曲点で氷瀑か草付きのようなものが見える。

ルートと幕営地を確認する。

カクネ里の出合にスムーズに降りられる斜面から一気に滑り降りる。

この斜面が今回の山行で一番気持ちよかったかもしれないw

出合から見上げる北壁。

いよいよ鹿島槍ヶ岳の懐に入っていく。幕営地まではできるだけ早く抜けてしまいたい。

カクネ里の側壁は下部の傾斜が強くなっているところが多く、雪崩や落石を避けられるところが少ない。新井さんの撮った写真をみると側壁の大きな沢筋を外したカクネ里内に泊まったんじゃないかと思うが、自分は洞窟尾根末端のインゼルのようなところを幕営地に決めていた。

各ルンゼ、エスケープルートなどをしっかり頭に入れながらインゼルを目指す。

エスケープルートにはクラックが開きつつあるところが多いが、滑り下りられないほどでは全くない。

カクネ里と遠見尾根。

最後に少しアイゼンを履いてインゼルに登りあげる。

 

ちなみにこのミレートリロジーのパンツ、太くなくちょうどいい。クライムアンドライド系の山行におすすめ。

インゼルで雪洞を掘ってツェルトを張って泊。

翌日、無駄なものを全て置いて登攀開始。

一つ目の屈曲点で段差ができてしまっているが、側壁からうまく処理すれば降りられそう。ただやはりここで段差ができるということは、雪が少ないんだろう。

気になっていた雪の状況は、側壁に守られて日射の影響をあまり受けていないようで柔らかい。

そして氷瀑が始まる。

大系に20mと書いてある滝の気がするが、傾斜のあるところは6,7mくらい。右側は1,2cmのベルグラが張り付いた岩、左はスカスカの草付きに雪が少し被っているような状態。やはりこんなものはクライムダウンできない。

登りきったところで懸垂用の支点を作れる場所をしばらく探した。氷は薄いところが多いし、岩は脆かったり氷が張り付いていて時間がかかった。少し先に行けば良さそうな氷があったが、ロープの長さが足りなそうだった。

 

そのあとしばらく続く氷雪壁。

ここも所々スキーを担いでクライムダウンするには悪そうなところが多い。懸垂の支点もVスレッド用のスクリューとハーケン1枚しか持ってきていなかったので、登りながら下降のことを悩む。

 

200mほど氷雪壁が続いたあと傾斜は少し落ち雪壁になる。この辺りからルンゼが浅くなり見通しも効くはずだが、ガスが晴れない。

そしてさらに氷瀑が現れる。

新井さんは側壁からかわして滑ったらしいが、ここもクライムダウンか懸垂だろう。

この辺りからルンゼが開けたせいか雪がクラスト気味になる。

この先はひたすら雪壁を登って山頂着。

登りながら判断はついていたが、正面ルンゼの下降は諦めることにした。

上部で雪が硬くなってしまったのと、懸垂用支点の数も種類も足りてなかった。

予定を変更して大橋真さんが滑ったラインを滑ることにした。予報を確認して昼過ぎまでガスが晴れるのを待った。

カクネ里。

南峰と劔。

劔岳。

槍ヶ岳。

爺ガ岳。

そして山頂から滑走。

遠くに見える東尾根との分岐の先からカクネ里側に降りる。

ポイントの稜線から下降。

硬い雪面。

ギリギリエッジが入るかどうかくらい。これは、、という感じ。

3、4百メートルくらい頑張ってスキーで下降してみたが、傾斜の強くなるところで断念。アイゼンに履き替える。

ツボ足になってしまえばくるぶしくらいまで埋まるモナカ雪だが、クラストの上にスキーが乗ってしまってエッジが入ってくれない。

大橋ルートならなんとかなるだろうと思っていたが、雪が硬すぎた。

斜面自体は途中いい斜度はあるが綺麗で雪が柔らかければ楽しそう。

 

その後はひたすらバックステップでカクネ里に下る。

キレット小屋。こう見るとすごいところに建っている。

雪洞が見える。

徒歩にてカクネ里着。

翌日。

スキーで貸切のカクネ里を下り、北壁をあとに。

帰りは中遠見に続く尾根を登って遠見尾根稜線へ。

【 まとめ 】

 

ずっと挑戦してみたかった北壁にきてとても感じたことは、スティープスキーはやっぱりよく言われるようにクライミングのフリーソロのようなものだ。雪質を見極める能力や、山の総合的な経験、実力は大前提として必要だけど、スキーに乗れている人、上手い人が一番滑落しないだろうし、安全なのだろうと思う。

 

練習してもっとうまくならないとなぁ。

 

 

以上、北壁をclimb &rideならぬ、climb &downした記録でした。

 

おわり。